不思議なのはむしろ公転

月がいつも表のみを地球に対して見せている原因は公転とともに自転しているからであるところ、それを「自転していないため」と説明したテレビ番組があったそうで、ネットで話題になっている。

当該番組の内容は難詰されても仕方がないのだけれど、無理のないところもなくはない。というのも、上記原因の前提には「月が公転のみを行っていれば360°全周を地球に見せることになる」ところ、地上にて公転に類推されるであろう円運動(旋回)において、そのような現象はおおよそ見られないからである。

例えば、ハンマー投げにおいて月に模されるハンマーはワイヤーによって固定されているため、ハンマーはそれを回す者に対してワイヤーとの接続点のみを見せたまま、空間内にて自転する。

また、自力で移動可能な自動車、飛行機等の移動体の旋回運動の場合は、旋回に必要な状態を得るために当該移動体は旋回中心に対して旋回面内における姿勢を変化させなければならず(例:左旋回する自動車は旋回中心に対して常に左ドアを見せている)、この姿勢の変化が、空間内においては自転となって現れる。

上記地上の現象における「ワイヤーによるハンマーの固定」や「移動体の旋回面内における姿勢の変化」が、地球と月の間における所謂潮汐固定に相当する。しかしながら、上述した地上における旋回等の運動の主体であるハンマーや移動体が、月と同様の意味で「自転している」と捉える者は少ないであろう。

このように、日常生活において公転に類するとされる運動は必ず自転を伴っており、自転を伴わない公転こそがむしろ希な現象である。加えて、ハンマーの例のように、ハンマーはワイヤーによって「(公転の中心に対して)固定」されることにより「(公転する空間に対して)自転」しているといった一見パラドキシカルな表現が現れる(これはカッコ書きした座標の混乱に基づく)。これらのことが、上記の誤解が解消しない原因になっているのであろう。

なお、「自転を伴わない公転」に類する状態を地上にて現出するには、運動する側において回転に対して自由な状態を作り出せばよい。ハンマーにおいては、ワイヤーとの接続端を(回す軌道を含む平面内にて)回転自在に、移動体においては移動する本体部分と乗員等を積載するボディとを(旋回軌道を含む平面内にて)回転自在に固定する。これにより、ハンマーやボディは慣性によって旋回中心に対して静止した状態に置かれることとなる。

以上のように考えると、月の運動においては「公転とともに自転している」知識を天下り的に知っていることよりは、その基礎となる「円運動のみによっては自転、すなわち運動するもの自身の回転は生じない」ことを再確認することのほうが、(物理としては極めて初歩的なことなのだけれど、それ故に)よほど意味があるように思われる。

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